児童福祉施設でくらす子どもたちは、家庭内でのさまざまな理由によって、家族と離れることを余儀なくされています。数年で家族のもとに戻る子もいますが、生まれた直後から高校卒業まで施設でくらしている子もいます。

 

施設にいる期間が長いか短いかという物差しで測ることはできません。施設で子どもたちとともにいると、施設で暮らしていること自体が子どもたちには傷つきとなっていることが伝わってきます。

 

もちろん施設の職員は、子どもたちが安心してくらせるよう、常に最大の努力をして環境や支援を提供しています。しかし残念ながら、どうしても埋められない穴、心の傷があります。

 

施設でくらすとは、それまで続いていた家族や地域での自分から切り離されることです。子どもたちは、それまでの時間を「失い」、施設にいます。施設に来てからも、さまざまな「失う」体験を繰り返しています。今回は「失う」という視点から、子どもの傷つきについて深めていきます。

 

 施設に来る前の「失う」体験
子どもたちは、施設に来る前も多くの失う体験をしています。虐待に代表される、不適切な養育の背景には、両親の離婚や再婚があります。そして再び新しい出会いがあっても、親が離婚することもあります。このような、親の都合による出会いと別れを繰り返し体験しています。

 

また、離婚や再婚のたびに、住む環境が変わっている子どもも多いです。そのたびに、幼稚園や学校、地域の友達との別れがあります。父親がドメスティックバイオレンスをしていたため、ある日突然、夜逃げするように新しい場所に移った子どももいます。

 

親が病気によって亡くなった子や、親が罪を犯し、拘留されることになったために施設に預けられる子もいます。このように、施設に来る前に、子どもたちは十分に失う体験を繰り返しています。

 

 施設に入所するということ
施設に来ることは、自分の土台となっていた家族や地域を失うことでもあります。施設にくる前にも多くの失う体験をしてきましたが、大きく異なる点は、自分を知っている人がいない場所で、新しい生活を始めなくてはならないということです。

 

小さな子どもにとって、新しい場所で、それまでの自分を知っている人がいないということが、どれほど孤独であるか、想像できるでしょうか。自分がどういう子どもであるか、例えば好きな食べ物、好きな遊び、嫌いなこと、癖などを知ってもらうことから、ゼロからの始まりです

 

 施設に来た後も繰り返される「失う」体験
施設で暮らし、なじんでも、失う体験は繰り返されます。最も多いのが、担当職員の退職や異動による別れです。あるいは、施設全体の事情により、子ども自身がくらす寮が変わることもあります。

 

また、子どもが施設に入っている間に、親が離婚や再婚をしていたり、転居していることもあります。両親が離婚したことを、数年後に知らされて、とてもダメージを受けた子どももいます。

 

このように、児童福祉施設で暮らすことを余儀なくされた子どもたちは、ほんの数年の間に、多くの失う体験を繰り返しています。さまざまな感情が入りまじり、混乱や葛藤が起こります。自分が生きてきた過去と、その先にあるはずだった未来が、大人の都合が変わるたびに、一方的に分断されてしまいます

 

「3歳のころ、僕ってどんな子だった?」、「あのとき、みんなでディズニーランドに行ったよね、楽しかったね」といった会話が出来ません。それだけでも、大きなストレスです。今を中心にして、過去と未来がつながらないこと、切り離されてしまったことは、深い傷に変わります。

 

心も未熟で、自分の状態をうまく言葉に表現できない彼らは、どうしようもない怒りや憎しみ、悲しみ、さみしさを暴れたり、泣いたり、人や自分を傷つけることによって収めようとします。しかし、失った自分の過去は戻りません。

 

今、児童福祉施設では、子どもたちの歴史=くらしという時間をつなぐ取り組みを丁寧に行っています。この取り組みは、子どもは自分の人生はつながっているという感覚を育むことを目的にしています。

 

取り組みを通して、「自分はここにいてよいのだ」、「家族に見捨てられたわけではなかったのだ」と思えることによって、心が安定していく子どももいます。しかし、失う体験の傷つきは、取り組みを行うだけでは回復しません。

 

一人でも多くの子どもが、このような傷つきをしないためには、社会全体の虐待への予防意識、大人一人ひとりが「自立」することが最善の近道です。

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