日常的で一方的、さらには理不尽で苦痛な体験である虐待による傷つきは、半年や一年といった短期間で回復することは不可能です。

 

虐待を受けた子どもがくらしている児童福祉施設は、20年前よりもはるかに「ケアの視点」に注目しています。

 

日常生活を支援する職員も心理的な知識やアプローチを活用しています。また専門に子どもの心理治療を行う、心理療法士も配置されています。

 

それにもかかわらず施設にいる短期間で、日常的に繰り返されるあらゆる暴力から完全に回復することは不可能に近いのです。

 

そこには虐待という行為が与える影響が、私たちが思っている以上に重たく、深いということでもあります。

 

そのほかにも施設という集団生活のハード面、ケアにあたる職員の力量不足、短期間で職員が変わることによる組織体制や人材育成の課題などが要因に挙げられます。

 

要因分析を行い、解決のための具体策に取り組んでいる施設は数多くあります。しかし、どんなに要因分析をしても、人材や力量を育てるには時間がかかります。

 

結果的に、そのしわ寄せは子どもの育ちに影響してしまうという悲しい現実があります。

 

このようなジレンマの中で、虐待による傷つきを持ったまま施設を卒園していった子どもたちは数多くいます。彼らがどのように社会で生きているのか、怒りに焦点を当ててみていきます。

 

 母への怒り・憎しみが消えない
U子は5歳のとき、母親からの壮絶な虐待によって児童養護施設にやってきました。

 

施設では優等生、大きな問題を起こすこともなく育ちました。施設の心理療法士とのカウンセリングを続けており、その時間が唯一、母親への思いを語る場所でした。

 

U子は母親に対して「あんな親のようにはなりたくない」と語りながらも、「いつ迎えに来てくれるんだろう」、「お母さんのところに帰りたい」と複雑な思いを持ち続けます。

 

母親はU子の願いには応えてくれません。

 

やっと連絡が取れたかと思うと、新しい男性の存在によってまた連絡が取れなくなる、そしてU子の知らぬ間に新しい子どもができている、その繰り返しです。それでもU子は母親を心から求めます。

 

高校生になったU子は母親の愛を求め、自ら施設を出て母親のもとに行きます。U子は「今の自分なら受け入れてもらえるかもしれない」、そんな思いで訪れますが期待外れに終わります。

 

深く傷ついたU子は、それまでの優等生が嘘だったかのように夜の街に出かけていき、自分の寂しさや傷みを癒してくれる場所を求めます。

 

母親への怒り憎しみ変わり、母親から生まれた自分を汚い存在だと苦しみます。混沌としたその感情をU子の心では保つことができず、過食嘔吐や自傷行為で紛らわそうとします。

 

 出口が見えない暗闇
施設を卒園し、25歳になったU子は今も苦しみ続けています。そして言います。

 

「すべてはあの人(母親)のせい。そこから離れることができたら楽になることも頭ではわかっている。でも、心があの人に縛り付けられて苦しい」。

 

U子が幼少期に優等生だったのは、母親からそう期待されてきたからでした。母親の期待通りに、すべてをこなすことができないと、ダメな人間だと暴力を振るわれていました。

 

母親から何度も浴びせられた「産まなければよかった」という言葉は、U子の生きる意味を揺るがせます。

 

施設でケア的な支援を受け、母親から離れて20年経った今も、生きる苦しみと戦いの日々を送っています。

 

 何が変わる必要があるのか
U子の例は、特別ではありません。もしかすると施設に預けられずに虐待的な環境で育った子どもの中には、このような傷を抱えて大人になっている人も多いでしょう

 

虐待に限らず、自分の弱さ、解消できていない怒りを子どもという弱者や見ず知らずの人に向けてしまう事件が増えています。

 

事件に至らずとも、人を攻撃したり、自分のことばかり考える人も増え、依存国家になりつつあります。

 

この悪循環がどれほどの悪を再生産するかということを、今一度考える必要があります。

 

自分の弱さを見つめずに、ほかの何かに依存をして解消しようとする未熟な社会では、子どもは育ちません。

 

自立は、孤立とは違います。自分が言っていること、していることに責任を持ちながらも、ほどよく人に頼ったり甘えたりしながら、多少の困難にも向かっていける力を持つことです。

 

感情的になって周りの人を巻き込んでいないか、自分の都合のよいように周りの人を使っていないか、日々の自分の言動を見つめなおしてみましょう

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