虐待の事件がニュースで流れると「子どもの泣く声が聞こえていた」、「顔や体にあざが数か所あった」と報じられます。

 

虐待的環境にいる子どもたちが受けているのは、日常的な暴言や暴力だけではありません。

 

ほんの少し前まではとてもかわいがられていたのに、親の様子が突然変わり「お前なんかいらない!」、「産みたくなかった」といった暴言とともに暴力を浴びせられることがあります。

 

また、養育する大人が転々と変わったり、住む場所が変わるたびに、自分の存在が認められたり否定されたりすることも多くあります。

 

大人の感情や都合によって自分が生きている意味が変わってしまいます

 

あなたがもし、このような状況に置かれたらどのような気持ちがするでしょうか。恐怖や苦痛、悲しみを感じるでしょう。

 

さらに理不尽さや矛盾わけのわからなさもあるでしょう。状況が理解できない混乱と、自分の感情がどこにあるのかわからない混乱がそこにはあります。

 

大人の一方的な負の感情を全面に受け、あらゆる混乱を内面で体験してきた子どもたちの奥底には「怒り」がしっかりと根を張っています。

 

子どもたちがどのように怒りを溜め込み、吐き出し、虐待から回復していくのか、児童養護施設でくらす子どもの事例を通してみていきます。

 

 事例〜K子 小学校4年生〜
K子は両親の離婚、母親の再婚、母親と継父からの虐待を受けていたために5歳のとき、児童養護施設に預けられました。

 

母親がしつけと称して虐待をしていたため、K子は自分のことは自分ででき、泣きわめいて職員の手をわずらわせることもなく、5歳にしては全く手のかからない、いわゆる「良い子」でした。

 

しかし、K子が誰にも見られない場所で感情を爆発させていることを担当職員は気づきます。

 

たいていK子はいつも一人で、施設の遊び場の住みっこで、土いじりをしています。職員もはじめは「ひとりで土遊びをしているのだろう」と眺めていましたが、毎日同じ場所で過ごしているのを見て、不思議に思います。

 

ある日、近づいていくとK子が何かぶつぶつと言いながら穴を掘って、そこに石を埋め、上から土をかけ、また穴を掘るという繰り返しをしていることに気づきます。

 

よく耳を澄ませてみると「ママのバカ」、「いなくなっちゃえ」と言っています。

 

職員はすぐに施設の心理療法士に相談し、園内でプレイセラピーを行うことにしました。すると生活場面では全く見せないK子の一面が浮き彫りになります。

 

過去に受けた虐待を再現するかのように、鬼のような形相でぬいぐるみを殴ったり蹴ったりします。

 

あるいはごっこ遊びでは幸せな家族が描かれていたかと思うと、突然外から悪者がやってきて母親を殺してしまう場面が展開されます。

 

K子は少しずつ、感じていること、過去の体験を通して感じてきたことを言葉にするようになります。

 

「ママは、うちじゃなくて男の人のほうが大事なんだ」、「ママは嫌い」、「ママのようにはなりたくない」とはっきりと言葉にします。

 

セラピーでの変化の背景には、どのような要因が考えられるでしょうか。

 

まずは、K子自身の成長が土台にあります。そのうえで、怒りを出しても暴力を受けることはない、むしろ怒りを出してよいのだと思える安心できる場が確保されたこと、表出した感情を受け止め、理解してくれる人がいるのだと思えたことが要因に考えられます。

 

どんなに安心できる環境を提供されても、心を開くことができない子どももいます。

 

K子がそれをできたのは、施設に来てからの日々の生活の中で担当職員が実に丁寧にK子と向き合い、受け入れ、「人は攻撃するばかりではない。安心できる存在もいるのだ」ということを伝え続けたからでしょう。

 

またK子自身が怒りを出したり、言葉にする力、人を信じようとする力を持っていたことも、変化に作用したと考えられます。

 

 怒りを溜め込む恐ろしさ
怒りは人間の感情の中で最も基本的な感情と言われています。

 

一方的に浴びせられた怒りと、自身の内面で混乱として抱いていた怒りを溜め込み続けることは、精神や身体を脅かしていきます。

 

キレやすい子、落ち着きのない子、極端に静かで何かを溜め込んでいるような子、いつも周囲の様子をうかがっている子というのは、必ず怒りをためています。

 

彼らは理不尽に、不適切に怒りを浴びせられてきたため、適切な怒りの出し方を知りません。

 

周囲の大人に心配され、病院を受診し、発達障害と誤診されたり、必要のない薬を処方されることもあります。

 

しかし、薬を飲んでも彼らが溜め込んでいる怒りは解消するどころか、自分の気持ちとは違う反応が出てしまいます。

 

結果的に2次的な怒りを引き起し、新たな問題としてみなされるという悪循環が起きてしまうこともあります。

 

 私たちができること
虐待を受けた子どもに限ったことではありませんが、上記のような傾向を示す子どもたちと出会ったとき、大人たちができることは病院に連れていくことではありません。

 

まずは、なぜそのような言動をしているのかを考えてみてください。そして、気にかかることがあれば、タイミングを見て直接子どもに聞いてみましょう。

 

「○○の様子が気になるけれど、何かあった?」などと、心配しているというメッセージとともに伝えることが良いでしょう。

 

そのとき子どもはあなたが期待するような答えをしないこともあります。しかし、だれかが気にかけてくれているというメッセージとして伝わることが大切です。

 

存在を否定されてきた子どもたちにとって、自分にも目を向けてくれる人がいると感じられることは、救われる体験になります。

 

虐待を発見し、救うことは難しいかもしれません。しかし、子どもが感じていることをサインとして受け止められる感度を高めることが、虐待に限らず、子どもを怒りの闇から救い出すきっかけとなります。

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