誰にでも生じる可能性のある「トラウマ」とはナニモノか

トラウマという言葉を耳にしたことがある人は多いでしょう。たとえば、過去の失恋体験がきっかけで、そのあと異性との関係がうまく取りにくくなってしまった、という話を聞いたことがあります。

 

「あの失恋がトラウマで男性不信になってしまった」とか、嫌な上司に厳しく叱られたことによって、「あの上司に叱られたことがトラウマで会社に行けなくなった」などと使っている人もいるでしょう。今回はトラウマについて見ていきます。

 

 トラウマとは
日々のストレスよりも大きく、より深く自分にダメージを与えたものをトラウマと呼ぶのでしょうか。トラウマとはストレスの延長上にあるものではありません。「心の傷」とも表現されますが、これを理解することは、実はとても難しいのです。

 

トラウマは、1970年代以降の米国のベトナム帰還兵と性犯罪被害の女性のトラウマ反応の研究から生まれました。日本でトラウマが注目されるようになったのは、地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災、大阪池田小殺傷事件などの犯罪自然災害からです。

 

一方、広い意味でのトラウマとは、人にそのときと同じ恐怖感や不快感を与え続ける体験、強い衝撃をもたらすような、日常では見られない出来事だけを指します。

 

例として、幼少期に両親から長い間「お前なんか産まなければよかった」と罵声を浴びせられ、殴る蹴るといった暴力を受けて育ったAちゃんがいたとします。彼女はそのあとに施設で暮らし、暴力のない安心した生活を送ることができるようになりました。

 

しかし、睡眠が安定しなかったり、ちょっとした物音に異常なほどおびえたりします。また、友達と仲良く遊んでいても、突然人形を殴ったり蹴ったりするといった言動がひんぱんに見られます。これらから、どのようなことが読み取れるでしょうか。

 

Aちゃんの日常は以下のようなものでした。夜寝ていると、酔っぱらった父親に無理やり起こされ暴力を受けるというものでした。また、暴力を受けているAちゃんを見ているのに、母親は助けてくれませんでした。

 

Aちゃんは、物音への敏感さや暴力への恐怖心から、安心して眠れる環境にありませんでした。さらには「助けてほしい」、「見ているなら何とかしてほしい」と願っても、見てみぬふりをされていました。

 

そして、今、施設で安心した生活を送るようになって、自分がされたことを遊びの中で表現しているのだろうと考えられます。これはほんの一例ですが、トラウマを一言で定義づけすることは非常に困難なのです。

 

 トラウマの精神医学的定義
よく使われている精神医学的定義は、米国精神医学会の「DSM−W−TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」に載っています。

 

診断のためにはまず、体験が定義に合うものかどうかを確認する必要があります。これには2つあり、一つは出来事の「質や種類」についてのものです。

 

診断基準によると「実際にまたは危うく死ぬまたは重症を負うような出来事を、1度または数度、あるいは自分または他人の身体の保全に迫る危険を、その人が体験し、目撃し、または直面した」とあります。

 

これは、1度でも、繰り返しでも、死の危険を感じるような出来事や、重傷を負うような出来事を体験や目撃をした、もしくは目撃ではないが心理的に直面したかのいずれかに当てはまっているという意味です。

 

もう一つは、体験する側の主観的な感情についてのものです。「その人の反応は強い恐怖、無力感または戦慄に関するものである」と診断基準にあります。

 

症状が定義に合うかどうか、それが発症後1か月以上経ってからも続いているかどうかを確認します。症状が1か月未満であれば急性ストレス障害(ASD)という診断、1か月経過後も続いて見られる場合に外傷後ストレス障害(PTSD:Posttraumatic Stress Disordre)となります。

 

トラウマ研究が進むにつれて、PTSDは異常な体験ではなく、死の危険を感じるような体験に巻き込まれれば、誰にもでも生じる反応であるという理解が広まってきました。トラウマの定義は『診断・統計マニュアル』が版を改める度に変えられてきました。それだけ議論が行われている難しい問題であると言えます。

 

もしもあなたが、過去に起きた出来事をトラウマだと感じ、今現在も心の傷としてあなたに影響を及ぼしていると感じた場合には、身近な専門家に相談してみるのが良いでしょう。

 

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