たった10か月で生まれる人間の子どもは、親や保護者に世話をしてもらわなければ生き抜くことはできません。子どもを育てることは、大人のように大きな身体に育てるだけでなく、内面や社会性も育てることです。

 

親や保護者は、自分の子どもや身近にいる子どもたちが、国に税金を納め、社会的な責任を果たし、自立した一人の人間として大きくなるために、時には自分を犠牲にして子どもをまもり、育てます。

 

このように、大人が子どもを育てることは当たり前のことです。子どもを育てずに放置したり、大人の力を振り回して子どもを暴力等でコントロールしていると親はその責任を問われます。

 

子どもが親に育てられる中でさまざまなことを身に付け、成長すると同じように、親や保護者も子どもに教えられ、気づかされ、成長させられることが多くあります。児童福祉施設という現場で子どもたちと関わる中で、職員が子どもに支えられているのだと感じる場面は実に多くありました。

 

ここでは、感情を解放するという場面を通して、子どもが大人を育てることについて考えていきます。

 

 「良い子」で育った40代女性Tさん
Tさんは35歳、同年齢の夫と10歳と6歳の娘がいます。地方の出身で都会の大学を出て、大手企業に就職しました。今は子育てが忙しいため、専業主婦をしています。

 

Tさんは地方でも大きな資産があり、名家と言われる家に育ちました。そこへ嫁に入った母親はTさんをどこに出しても恥じない娘に育てなければと、厳しいしつけをしてきました。名家に嫁に入った母親は、経済的に苦労することはありませんでしたが、祖父母との関係や、しっかりした子どもを育てることへの重圧でストレスを抱えていました。

 

そのストレスの矛先はTさんに向けられていました。そしてTさんは、常に母親や周囲の大人の顔色をうかがい、誰にでも、どこに出ても「良い子」と言われてきました。

 

大学に進学し、就職をして、物理的に親との距離ができ、自分の時間やお金を自由に使えるようになっても、常に母親や実家が気になって仕方ありません。異性と交際するときには、親が気に入るような相手をどこかで意識し、結婚相手を親に紹介するときはTさんにとって一大事でした。

 

35歳になり、子育てが少し落ち着いたTさんは最近、自分の人生を振り返ることがあります。大学も、結婚も出産も、母親の期待に沿うようにやってきた気がしてならず、こころがざわざわとしています。

 

 6歳の娘が感情を爆発させたときに気づく、抑圧してきた自分
そんなある日、6歳の娘がTさんに感情を爆発させる出来事がありました。数年前からピアノを習っていて、その日も夕方からレッスンがありました。遊びに夢中になり、なかなか重い腰を上げない娘に「早くしなさい!」、「遅れちゃうでしょ」と声をかけたときのことです。

 

娘がこれまで見たことのないような形相で「いやだ〜!」と足をばたつかせて泣き叫びます。Tさんには何が起こったのかわからず、とにかくレッスンに遅れてはいけないと叱りつけ、抱えるように連れていき、その場は収まりました。

 

しかしその日を境に、娘は些細なことで感情を爆発するようになりました。初めはとにかくその場を収めることと、自分の感情を抑えることに必死で、異物を見るような感じで接していたTさんですが、少しずつ娘の気持ちに目を向けるようになります。

 

ある夜、寝る前に娘が「ママは自分の思い通りにしないと言うこと聞いてくれないから嫌だ」とぽつりと言います。Tさんは「自分が娘にしていることは、自分が母親からされたことと同じではないか」と愕然とします。

 

その気づきは、Tさんを揺さぶらせます。自分の人生は間違っていたのだろうか、あの親の元に生まれた自分はナニモノなのだろうか、と自分の価値が揺らぎます。

 

自分の育ちや、娘と向き合う中で、娘のように感情を出して良いのだと考えるようになります。特に子どものときにしっかりと感情を出し、それを受け止めてもらうことで、のびのびと自分らしく生きられるという答えにたどり着きました。

 

 子どもが教えてくれたことで、親が変わる
今までの自分は、娘を自分の枠組みにはめこもうとしていたこと、そのことで自分もがんじがらめになり苦しんでいたことを実感します。

 

これまでの娘たちとの関係はニセモノだったのではないかと思うほど、コミュニケーションが生き生きとし、娘たちと過ごす時間が楽しくなりました。自分も無理をせずに感じたことや思ったことを素直に子どもや夫に伝えるように心がけるようになりました。すると、家族の会話が増え、雰囲気が明るくなっていきます。

 

あの時、6歳の娘が感情を爆発してくれたことで、自分の人生を振り返り、感情を抑えて生きてきた自分に気づき、解放することの喜びを知ることができたとTさんは振り返ります。

 

親(大人)が常に、すべて正しいわけではありません。子どもに教えてあげる、という姿勢ではなく、それぞれ人格を持った一人の人間として尊重して関わることで、親子ともに成長できるチャンスがあります。

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